椎名林檎『丸の内サディスティック』ギターロックで溺死願望

 

最近、テレビに椎名林檎さんが出演しているのをよく見かけます。

紅白に出たり、関ジャムで特集されたり、Mステに出たり。めっちゃ出演しているみたいです。

初のベストアルバムもリリースされましたね。

2020年の東京オリンピックでも音楽やるんですよね。

 

そんなわけで、私は絶賛椎名林檎視聴覚週間に突入。

昔の曲から全部聴き直してます。

「やっぱ天才やなぁ」と遠くを見つめたり。
新曲リリース直後にリアルタイムで聴いていた時には気づかなかったことに気づいたり。
デビューしてから20年、「お互い年を取りましたなぁ」なんて思ったり。

1978年生まれのリンゴ姉さんは私とほぼ同世代。
彼女が売れ始めたばかりの頃に私が通っていた大学で学園祭ライブをしたこともありました。

学年はひとつ違うだけなのに片や鳥飛ぶを落とす勢いの新宿系ミュージシャン。
片やしがない素人バンドのギター担当。

ステージに立って魅せるものと、ステージを仰ぎ見て魅せられる者。

生まれた星が違いすぎる!!(笑)

もちろん面識なんか全然ないんですけど、見てきた景色だけは近いので歌詞に惹かれるんですよね。

 

 

今回は『丸の内サディスティック』を取り上げたいと思います。

ファーストアルバム『無罪モラトリアム』の収録曲。

コード進行は、誰でも簡単にカッコいい曲が作れると言われている「Just the Two of Us進行」を採用。
とてもノリがよく聴きやすい。

 

しかし、歌詞はやたら難しいです。

ギターやってる人ならある程度はすんなり入ってくると思うんですけど、ギターやってない人はチンプンカンプンだと思います。

ギターやってても、分からないところがたくさん。

ってことで、頑張って解説してみました。

作詞:椎名林檎

報酬は入社後平行線で
東京は愛せど何にも無い

リッケン620頂戴
19万も持って居ない 御茶ノ水

マーシャルの匂いで飛んじゃって大変さ
毎晩絶頂に達して居るだけ
ラット1つを商売道具にしているさ
そしたらベンジーが肺に映ってトリップ

最近は銀座で警官ごっこ
国境は越えても盛者必衰

領収書を書いて頂戴
税理士なんて就いて居ない後楽園

将来僧になって結婚して欲しい
毎晩寝具で遊戯するだけ
ピザ屋の彼女になってみたい
そしたらベンジーあたしをグレッチで殴って

青噛んで熟って頂戴
終電で帰るってば池袋

マーシャルの匂いで飛んじゃって大変さ
毎晩絶頂に達して居るだけ
ラット1つを商売道具にしているさ
そしたらベンジーが肺に映ってトリップ

将来僧になって結婚して欲しい
毎晩寝具で遊戯するだけ
ピザ屋の彼女になってみたい
そしたらベンジーあたしをグレッチで殴って

 

まず『丸の内サディスティック』というタイトルから行きましょう。

丸の内は「丸の内線」のこと。
池袋、後楽園、御茶ノ水、東京、銀座、新宿などを通る路線。

歌詞の中にこれらの駅名が登場しますね。

そしてサディスティックの意味。

これはロックのことです。ロックが私を容赦なくぶん殴ってくる、狂わせるということ。

 

この歌詞を簡単にまとめると、

「丸の内線を使っている新卒の女性がロックにメロメロ」という内容です。

 

では、さらに詳しく見ていきましょう。

 

報酬は入社後平行線で
東京は愛せど何にも無い

上京して働き始めたけど、給料は上がらない。

東京のことは好きだけど、何も生きがいが無かった。

って感じですね。

 

リッケン620頂戴
19万も持って居ない 御茶ノ水

リッケン620ってのは、リッケンバッカー620というエレキギターのこと。
リッケンバッカーはジョン・レノンやピート・タウンゼントらが好んで使っていたことでも有名です。

リッケンバッカー620

この曲が発表された1999年当時は19万円くらいだったんですかね。
今は25万円弱です。2020年、価格ドットコム調べ。

御茶ノ水は楽器屋が多い街として有名ですね。
この界隈をウロウロしていれば誰かしらプロのミュージシャンに会えますよ(笑)

 

つまり、この部分の歌詞の意味は
「上京して入社したてで金がない。リッケンバッカーが欲しくて御茶ノ水の楽器屋に来たけど、19万円!高すぎる!」となります。

 

マーシャルの匂いで飛んじゃって大変さ
毎晩絶頂に達して居るだけ
ラット1つを商売道具にしているさ
そしたらベンジーが肺に映ってトリップ

マーシャルはアンプのこと。
プロのギタリストは全員使ってると断言できるくらい良い音が鳴るし、売れてるアンプです。

マーシャルのアンプ

ラットはRATというエフェクターの名前。
エレキギターの音色を電気信号で変化させる機材ですね。

RATのエフェクター

ベンジーは浅井健一(元BLANKEY JET CITYのギター兼ボーカル)の愛称。
めちゃギターが上手くて、超エロい声のあの人。

RATのエフェクターはベンジーも使っています。

浅井健一とグレッチのギター

ギターをRAT経由でマーシャルに繋いで弾いたり、浅井健一を聴いたりして、ぶっ飛んでいる情景を表現してるわけですね。

「マーシャルの匂いで飛ぶ」「ベンジーが肺に映ってトリップ」のように愛してやまないロックなアイテムをマリファナに喩えて表現しています。
マリファナは特有の匂いがあり、タバコのように煙を吸って肺から吸収するものですからね。

「私を正気でいられなくするもの、気持ちよくするもの=ロック」という意味。

 

 

問題はこの後。

難しいんですよ。何言ってるか分かりません。

最近は銀座で警官ごっこ
国境は越えても盛者必衰

領収書を書いて頂戴
税理士なんて就いて居ない後楽園

「警官ごっこ」が一体何を指すのか?

「国境は越えても盛者必衰」にかかっているわけですから、コスプレや警察官に追い掛け回されている情景ではなさそうですよね。

さらに「領収書を書いて」「税理士がいない後楽園」と来るので、謎すぎるんですよね。
税理士に確定申告を依頼できるほど売り上げのない個人事業主って感じでしょうか?
でも会社員のはずなので、税理士がいないのは当たり前ですし。

この段落は、ロック要素がいきなりゼロになりました。

 

ヒントは『丸の内サディスティック(EXPO Ver.)』にありそうです。

『丸の内サディスティック(EXPO Ver.)』は『丸の内サディスティック』の英語バージョンなんですよ。

日本語バージョンの歌詞は最初はすべて英語で書かれており、後から日本語に訳したものになっています。

そのため言葉遊び的な表現も含まれているんですね。
日本語の音を崩して、英語っぽい発音で歌っていますよね。

『丸の内サディスティック(EXPO Ver.)』ではこう表現されています。

Playing cops and robbers ‘neath Ginza signs

All who chance to prosper shall go blind

Won’t you buy me a Ric to play

What I got ain’t enough to pay

「警察と泥棒遊び(Playing cops and robbers)」と言っているので、
警察ごっこというのは、ケイドロ(ドロケイ)のことだったんですね。

場所は銀座ではなく、銀座という看板の近く。

そこまでは分かったんですが…

 

その後の言葉の意味はやはり分かりません。

何が盛者必衰なのか。国境とは何を指すのか。

「Ric(リッケンバッカーの略だと思われる)を私に買ってくれない?私、お金を持ってないの」と言っているので、主人公が貧乏なことは分かりますが、
「ケイドロ」や「盛者必衰」との関連が見えてきません。

 

難解すぎますね。

リスナーに理解してもらおうという意図がまるでありません。

ネット検索すると人それぞれにいろんな解釈をしていますが、
どの説もツッコミどころ満載で正解っぽいことを言ってる人はいませんでした。

正解は本人に聞くしかないかもしれませんね(笑)

 

将来僧になって結婚して欲しい

「将来僧になって」の部分は、「いつか悟りを開いて」という意味。

つまり、ニルヴァーナ(涅槃)になってということ。

椎名林檎はニルヴァーナが好きなんですよ。ロックバンドの。グランジの。

ギブス』の歌詞にもニルヴァーナのカート・コバーンや妻のコートニー・ラブが出てきます。
『ギブス』ではカートを好きな男に喩えて、コートニーを自分に喩えています。

『丸の内サディスティック(EXPO Ver.)』ではカートが出てきます。

Nirvanaも頭文字が大文字で書かれているので、
涅槃という意味の一般名詞ではなく、固有名詞のバンド名だと分かりますね。

I’ll rip into those robes and pursue the Dharma

A Buddhist monk of my own would feel fine

Selflessness and cessation get you Nirvana

It Kurt would beat my Gretsch, I think I’d fly

「浅井健一と同じようにカート・コバーンも好きでたまらない、カートみたいになって結婚して欲しい」と言っているわけです。

毎晩寝具で遊戯するだけ

寝具はsing、singleにかけていますね。
カート・コバーンはボーカリストですからsing。現実には彼氏がおらず一人なのでsingle。

「毎晩寝具で遊戯するだけ」という部分は、カートを思い浮かべながらオナニーしてるだけって意味です。

ピザ屋の彼女になってみたい

ピザ屋の彼女は、ブランキージェットシティの『ピンクの若いブタ』という曲から引用したもの。

「アバズレ女でチューインガムを噛んでるピザ屋の彼女。そんな彼女を俺は愛してる、それだけでいい」という歌。

そんな風にベンジーから愛されたいってことですね。

そしたらベンジーあたしをグレッチで殴って

グレッチは浅井健一が愛用しているギターのメーカー。
箱ギター(ボディが空洞)で有名ですね。ホワイトファルコンとか。

「グレッチで殴って」というのは、「グレッチをかき鳴らして、その音で私の心をめちゃくちゃにして」ってこと。

本当にギターでブン殴ってほしいわけじゃないです。
ベンジーもそんなことしません(笑)

 

 

そして、また難解な部分。

青噛んで熟って頂戴

青噛んで熟って頂戴は「青姦でイってちょうだい」ってことでしょうね。

青姦と直接書いたら野暮になるので、言葉遊びをしてるんでしょう。

また「熟って」を「いって」と読ませているのもポイント。
「熟」を「い」とは読みませんからね。その字をあえて当ててるのは理由があるからです。

「青」は未成熟の色、青春とか、まだまだ青いなとか言いますよね。
「若い私」という意味。

「熟」は熟成された人、大人という意味。

つまり、まだ新卒の小娘の私が、成熟した大人の男とセックスしている様子を描いているわけです。

成熟した大人とは誰のことなのか。
浅井健一なのか、カート・コバーンなのか。

しかし「私でイって」と言っているので、ロックの象徴であるベンジーやカートのことではなさそうです。
「私は彼らをイかせる存在ではなく、イかされる存在」のはずですから。

終電で帰るってば池袋

「終電で帰るってば」とも言っているので、好きではない男が相手なのかもしれません。

引き留めようとする男を振り切って帰りたい時に女性が放つ言葉ですからね。

好きな男が相手なら朝まで一緒にいたいはず。始発で帰ります(笑)

 

ベンジーやカートに抱かれるのを夢見ながら、現実には好きでもないオジサンと青姦している女性を描いているのかもしれません。
ピザ屋の彼女はアバズレ女ですし。

安月給で貧乏。19万円のギターは買えない。

彼女はお金を稼ぐためにパパと寝ているか、売春をしているのかもしれません。

警官ごっこ、国境を越えても盛者必衰、税理士がいないという件とも関連がありそうな雰囲気がしてきませんか?

 

タイトルの「サディスティック」はロックのことだと言いましたが、
現実の辛さとのダブルミーニングになっているかもしれませんね。

ロックは良い意味で私を打ちのめしてくれるサディスティックな存在。

現実は悪い意味で私を消耗させるサディスティックな存在。

 

 

というわけで、超難解な『丸の内サディスティック』の意味を考察してみました。

難しい!!

 

確実に言えるのは「どんだけベンジー好きなんだよ!」ってことくらいでしょうか(笑)

椎名林檎はベンジーのことが好きすぎて、
ベンジーの『危険すぎる』にコーラスで参加していますし、椎名林檎の『罪と罰』ではベンジーがギターで参加しているんですよ。

あら?

いつの間にか相思相愛(笑)

 

 

 

ここからは余談。

「椎名林檎」って印象的な名前、覚えやすい字面だと思うんですけど、JASRACに登録する時に深く考えずに適当に命名したのだそう。

本名の”椎名”裕美子とビートルズの”リンゴ”・スターを合わせただけらしいです。

椎名林檎の曲は音も言葉も深い思考を経て繊細に作られているんですけど、本人の芸名はそうでもないんですね(笑)

 

メディアではよく「新宿系」と紹介されていますが、歌詞を読む限りどこが新宿なのかわかりませんよね。

新宿系というのはインタビューで「何系?」と聞かれたときに本人が出まかせで言っただけで、深い意味はないとのこと。

繊細&天才に見えるけど、案外適当な一面もあるんだなぁと思いました(笑)

 

 

椎名林檎ファンってマニア的&熱烈な人が多いイメージがあるんですが、その影響なのかWikipediaの情報量もすごいです。

正確性は保証できませんが、斜め読みするだけでも面白かったですよ。

Wikipedia 椎名林檎

 

 

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