競輪愛の詰まった美しい歌詞 友川カズキ『夢のラップもういっちょ』

 

友川カズキさんというフォークシンガーのことを知っている人は少ないかもしれません。

私もナインティナインのオールナイトニッポンの中で岡村さんが紹介しているのを聴くまでは、まったく知りませんでした。

ラジオの中で生歌も披露していたんですけど、あまりの迫力に圧倒されました。

リンク先はYouTube音源で、ご本人が登場してます。
ナイナイとのトークの後に『生きてるって言ってみろ』『トドを殺すな』の2曲を披露しています。

たかがラジオの音だと思うでしょ?

いやいや、ラジオを突き破ってくるんですよ。気迫が。

スタジオで聞いていたナンティナインの2人が言葉を失って何も言えなくなるくらい。

超一流の芸人さんが言葉を失っていました。

友川さんが帰ったあと岡村さんは「完全に食われた。レイプされた後みたいや。もう圧倒されるのよ。圧倒的な力があるのよ」と絶賛。

矢部さんも「ホンマ、放心状態ですね。あれ間近で聴くと、見ると。」と同調していました。

ハンパないです。

大迫よりハンパないです。

 

私はそのラジオをきっかけにして興味を持って、他の曲もいろいろと聴いてみたんですけど、すごいんですよ。

歌詞も、曲も、生き方も。

 

この記事では、友川カズキさんの曲の中でもとりわけ私が気に入っている『夢のラップもういっちょ』という曲を紹介します。

まずはこちらの動画をご覧ください。

昔の動画なんですけど、
この時点で友川さんは「20枚くらいCDを出しましたが、誰も私のことを知りません」と自虐ネタから入ります。

しっかりお客さんの笑いを取って、気持ちをほぐしてから演奏に入ります。

このあたりは無数のライブをこなしてきた大ベテランという感じですね(笑)

 

友川さんは大の競輪ファンで、有り金は全部競輪に突っ込んでしまうほど。

競輪が生活のすべてと言うほどのギャンブラー。

そんな彼がこの曲で歌っているのは、競輪場にいる人々の様子や、滝澤正光という伝説の競輪選手への愛。

その言葉が瑞々しさと、生生しさが混在していて素晴らしいんですよ。

こんな詩を書くJポップミュージシャンは皆無ですよね。

一行一行、噛みしめて読みたくなります。

 

 

『夢のラップもういっちょ』

作詞:友川カズキ

あの人もいい人だった やれこの人もいい人だった
それは口をぬぐうように楽ではあるが

そのウラもまたある事で ウラはウラであいまいで重く
家のない家路を急ぐようなもの

降りつむ雪の花に刃を向けるようなもの

オーイ 夢のラップもういっちょ
さあ 夢のラップもういっちょ

あれは武雄の競輪場
鼻のアタマにアイスクリームをつけて
地面とも新聞とも一体化した老人

あれは花月園の競輪場
お前のヨミは全然違うじゃないかと
こずき合う白髪のご両人

流れ流れ辿り着いた 消えて久しい村まつり

オーイ 夢のラップもういっちょ
さあ 夢のラップもういっちょ

夢ふたたび教えてくれたのは
ディランでもスプリングスティーンでもなく
朝もやを突いて走る滝澤正光

走ることでしかそがれていかないものの
沢山あることを知っている
滝澤正光様が走っている

あこがれゆく理由がそこかしこにある

オーイ 夢のラップもういっちょ
さあ 夢のラップもういっちょ

逃げろ 逃げろ 滝澤
逃げろ 逃げろ 滝澤

滝澤行け 滝澤行け
逃げろ逃げろ 逃げろ

世の中には本音と建て前があり、どちらも真実でどちらも虚しい。

そんな気持ちを吹き飛ばしてくれるのが、競輪界の大スター滝澤正光。

彼を見るために集まった人々の様子は、昔の村祭りを見ているようだ。

滑稽で間抜けで、でも、憎めない人々。

競輪を通して研鑽を積んだ滝澤正光の姿にみんな憧れている。

もう一周だけ夢を見させてくれ。

そんな気持ちを抱きつつも、最終周はギャンブルに熱狂して叫ぶ。

 

夢と現実が交錯する見事な詩ですよね。

ラップというのは周回のこと。F1などでもファイナルラップと言ったりしますよね。あのラップです。

滝澤正光という選手は、中野浩一(世界選手権10連覇という異常な強さの選手)が最強だった時代にデビューし、最初は勝てなかった中野浩一を努力の末に破って、その後グランドスラムを達成するなど、通算成績2457走中787勝という怪物的な結果を残した人。

全盛期は「逃げ」が得意だったので、友川カズキさんも歌詞の中で「滝澤逃げろ!!」と叫んでいるわけです。

 

力が入ってくると、フォークギターの弦がブチ切れるほどの強いピッキングになります。

それもものすごいんですよね。

 

友川カズキさんはこのように印象的な作詞をされる方で、他の曲もおすすめです。

私が好きな曲では『生きてるって言ってみろ』『一人ぼっちは絵描きになる』などですが、一曲一曲個性が全然違うので、人によって刺さる曲は違うんじゃないかなと思います。

 

 

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